傷病手当金の計算と申請条件【2026年版】

高橋 健太 (Kenta Takahashi)
金融機関での実務経験を活かし、難しい税金や社会保険の仕組みを「誰にでも分かりやすく」解説することをモットーに活動しています。CalcEasyでは、ユーザーの皆様が自分のお金や制度について正確にシミュレーションできるよう、コンテンツの監修とツール設計のサポートを行っています。

「来週から2ヶ月入院することになりました。有給は残り5日しかありません。生活費、大丈夫でしょうか——」
会社員として健康保険に加入している方には、こうした不安に応えてくれる心強い制度があります。それが傷病手当金です。 ざっくり言えば、お給料のおよそ3分の2を、最長1年半にわたって受け取れる仕組みです。
この記事では、実際に多い相談事例をまじえながら、 「自分はいくらもらえるのか」を正確にシミュレーションできるよう解説していきます。
病気で休んだら、給料の2/3がもらえる?
傷病手当金は、健康保険(協会けんぽ・健保組合)に加入する被保険者が、 業務外の病気やケガで就労不能となった場合に支給される所得保障の制度です。
- 支給額:標準報酬日額の2/3(約67%)
- 支給期間:支給開始日から通算1年6ヶ月(最大548日)
- 待期期間:連続3日間の休業後、4日目から支給
ちなみに、うつ病・適応障害・パニック障害などの精神疾患も対象です。 「身体のケガじゃないとダメなのでは?」という質問をよく受けますが、 医師から就労不能の診断を受けていれば問題ありません。実際、傷病手当金の支給件数でも精神疾患は上位を占めています。
⚠️ 注意:国民健康保険(自営業・フリーランスなど)には傷病手当金の制度はありません。 会社員・公務員など被用者保険の被保険者が対象です。
もらうための4つの条件
業務外の事由による病気やケガであること
業務上・通勤途上の災害は労災保険の対象であり、傷病手当金の対象外です。
仕事に就くことができないこと(就労不能)
医師の意見と本人の業務内容を総合的に判断して決定されます。
連続3日の待期期間を含み4日以上休業していること
待期期間には有給休暇・土日祝日も含まれます(次の章で詳しく解説)。
休業期間中に給与の支払いがないこと
給与が支払われていても傷病手当金日額より少ない場合は差額が支給されます。
ここで気になるのが、「パートやアルバイトでも受給できるのか?」という点。 結論から言うと、健康保険の被保険者であれば雇用形態は問いません。 ただし、健康保険に加入していないパート(国民健康保険のみ)の場合は対象外です。 週の所定労働時間が常勤の3/4以上、または従業員51人以上の事業所で週20時間以上勤務するなど、 社会保険の適用条件を満たしていることが前提になります。
「連続3日」が意外とハマる落とし穴
傷病手当金の支給は連続3日間の休業(待期期間)が完成した翌日(4日目)から始まります。 この3日間は有給休暇・土日祝日・公休を含みます。
ここが意外と見落としがちなポイントです。下の表を見てください。
| ケース | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 結果 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 成立 | 休① | 休② | 休③ | 支給開始 | 支給 | ✓ |
| 不成立 | 休① | 休② | 出勤 | 休 | 休 | ✗ |
※ 「不成立」の例では水曜に出勤しているため連続3日が途切れ、待期期間が成立しません。木曜から改めてカウントが必要です。

(待期期間の成立・不成立パターン)
実務でよくある質問ですが、「有給休暇を使った日は傷病手当金の対象になる?」—— 答えはケースバイケースです。有給休暇を取得して給与が全額支払われた日は支給対象外ですが、 待期期間(連続3日)のカウントには有給の日も含まれます。 そのため、最初の3日間は有給を消化し、4日目以降に傷病手当金へ切り替えるというのが、もっとも一般的で賢いパターンです。
実際いくらもらえる?計算3ステップ
金額のイメージが湧かないと不安なものです。傷病手当金は、以下の3ステップで計算できます。
標準報酬日額を計算
標準報酬月額 ÷ 30 →1の位を四捨五入(10円単位に丸め)
傷病手当金日額を計算
標準報酬日額 × 2/3 →小数点第1位を四捨五入(円単位に丸め)
支給総額を計算
傷病手当金日額 × 休業日数 − 休業中の給料 = 支給総額

(傷病手当金の計算フロー)
標準報酬月額別の早見表
代表的な標準報酬月額ごとの傷病手当金日額の目安です。自分の月額に近い行を探してみてください。
| 標準報酬月額 | 標準報酬日額 | 手当金日額 | 30日分 | 180日分 |
|---|---|---|---|---|
| 200,000円 | 6,670円 | 4,447円 | 133,410円 | 800,460円 |
| 240,000円 | 8,000円 | 5,334円 | 160,020円 | 960,120円 |
| 280,000円 | 9,330円 | 6,220円 | 186,600円 | 1,119,600円 |
| 320,000円 | 10,670円 | 7,113円 | 213,390円 | 1,280,340円 |
| 360,000円 | 12,000円 | 8,000円 | 240,000円 | 1,440,000円 |
| 410,000円 | 13,670円 | 9,113円 | 273,390円 | 1,640,340円 |
| 500,000円 | 16,670円 | 11,113円 | 333,390円 | 2,000,340円 |
| 620,000円 | 20,670円 | 13,780円 | 413,400円 | 2,480,400円 |
| 830,000円 | 27,670円 | 18,447円 | 553,410円 | 3,320,460円 |
※ 標準報酬日額は「1の位を四捨五入」、手当金日額は「小数点第1位を四捨五入」で計算しています。
計算例で確認してみましょう
例1:標準報酬月額 280,000円・180日休業
条件:標準報酬月額 280,000円、休業日数 180日(待期3日除く)、休業中の給料なし
① 標準報酬日額 = 280,000 ÷ 30 = 9,333.33... → 9,330円(1の位を四捨五入)
② 傷病手当金日額 = 9,330 × 2/3 = 6,220 → 6,220円
③ 支給総額 = 6,220 × 180 = 1,119,600円
例2:被保険期間12ヶ月未満・標準報酬月額 360,000円
条件:入社8ヶ月目に発症、標準報酬月額 360,000円、2025年4月以降に支給開始
① 全被保険者平均 320,000円 vs 本人の 360,000円 → 低い方の320,000円を使用
② 標準報酬日額 = 320,000 ÷ 30 = 10,666.67... → 10,670円
③ 傷病手当金日額 = 10,670 × 2/3 = 7,113.33... → 7,113円
→ 被保険期間12ヶ月未満のため、全被保険者平均額で上限が適用されます。
入社1年未満でも受け取れる?
「まだ入社して半年なんですが、もらえますか?」——これも多い質問です。 答えは「もらえます。ただし金額に上限がかかる場合があります」。
被保険期間が12ヶ月に満たない場合、以下のいずれか低い方の金額を使って計算します。
| 比較対象 | 金額 |
|---|---|
| 本人の標準報酬月額 | 実際の被保険期間における標準報酬月額の平均 |
| 全被保険者平均 | 300,000円(〜2025年3月31日開始分) 320,000円(2025年4月1日〜開始分) |
もうひとつ、よく聞かれるのが「退職後も傷病手当金を受給し続けられるのか?」という質問です。 退職日までに被保険期間が継続して1年以上あり、 退職日に傷病手当金を受給中(または受給要件を満たしている)であれば、 退職後も引き続き支給を受けることができます。 ただし注意点がひとつ——退職日に出勤してしまうと、継続給付の権利を失います。 最終出社日の取り扱いは会社の人事に事前に確認しておくのが安全です。
他の制度と重なったらどうなる?
以下のような場合、傷病手当金が調整(減額)または停止されることがあります。
- 休業中に給与が支払われた場合:手当金日額との差額のみ支給(給与 ≥ 日額なら不支給)
- 出産手当金を受給中:傷病手当金が出産手当金より多い場合は差額を支給
- 老齢退職年金を受給中:年金日額が傷病手当金日額以上なら不支給
- 障害年金を受給中:障害年金日額が傷病手当金日額以上なら不支給
- 労災保険の休業補償給付を受給中:労災給付が優先されます
支給額の調整だけでなく、税金面も気になるところだと思います。 結論から言うと、傷病手当金は非課税です。所得税・住民税はかかりません。確定申告の必要もありません。 ただし、休職中も社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)は通常通り発生し、 会社から控除または請求されるのが一般的です。この点だけは忘れないようにしてください。
通算1年半もらえる——ただし2022年の法改正に注意
令和4年(2022年)1月1日以降に支給開始された傷病手当金は、 支給開始日から通算して1年6ヶ月(約548日)が最長です。 途中で出勤した日はカウントされないため、断続的に休業した場合でも通算で1年6ヶ月分の支給を受けられます。
💡 改正前との違い:2021年12月31日以前に支給開始された場合は「支給開始日から暦日で1年6ヶ月」 でしたが、現在は「通算」方式に変更されています。途中復職した期間は支給期間にカウントされません。 この改正のおかげで、体調に波がある方でも制度を使い切りやすくなりました。
申請前に確認しておきたい3つのこと
最後に、これから傷病手当金の申請を考えている方に向けて、押さえておくべきポイントを3つだけ。
待期期間3日のカウントを正確に
有給・公休でもOK。ただし「連続」が途切れたらリセットされます。休み始めた日をカレンダーで確認しておきましょう。
標準報酬月額を把握しておく
直近の給与明細や健康保険証の等級欄で確認できます。上の早見表と照らし合わせれば、おおよその受給額がすぐにわかります。
保険者の窓口に早めに相談する
協会けんぽなら各都道府県支部、健保組合なら組合の事務局が窓口です。申請書の書き方から主治医の意見書まで、丁寧に教えてもらえます。
病気やケガで働けなくなるのは、誰にでも起こりうることです。 「自分には関係ない」と思っていた制度が、いざというときに大きな支えになります。 まずは一歩、今の自分がいくらもらえるのかを確認するところから始めてみてください。
【免責事項】
本記事の内容は2026年3月時点の情報に基づく概算です。 制度内容は改正されることがあります。 実際の支給額や手続きについては、加入している健康保険の保険者(協会けんぽ・健保組合)にご確認ください。 本記事の情報と実際の支給額が異なった場合、当サイトは責任を負いかねます。
参考資料
- ・全国健康保険協会(協会けんぽ)「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」
- ・厚生労働省「傷病手当金について」