高額療養費制度の計算と申請【2026年版】

高橋 健太 (Kenta Takahashi)
金融機関での実務経験を活かし、難しい税金や社会保険の仕組みを「誰にでも分かりやすく」解説することをモットーに活動しています。CalcEasyでは、ユーザーの皆様が自分のお金や制度について正確にシミュレーションできるよう、コンテンツの監修とツール設計のサポートを行っています。

ある会社員が病気で入院し、退院時に渡された請求書を見て凍りつく——金額は約150万円。 でも、彼が最終的に支払うのは、その全額ではありません。日本には高額療養費制度という、 医療費の自己負担を一定の上限までに抑えてくれる仕組みがあるからです。 本記事では、この会社員の入院から退院後の手続きまでをたどりながら、 制度のしくみと、知っているだけで負担が変わってくるポイントを順番に見ていきます。
「150万円の請求書」を前に凍りつく——でも、実際に払う額はもっと少ない
高額療養費制度は、同一月(1日〜末日)にかかった保険適用の医療費の自己負担額が一定の限度額を超えた場合に、 超えた分が健康保険から払い戻される仕組みです。協会けんぽ・健保組合・国民健康保険、いずれの公的健康保険でも使えます。
- 対象:健康保険・国民健康保険に加入しているすべての方
- 単位:月ごと・医療機関ごと・入院と外来は別計算(70歳未満)
- 申請先:加入している健康保険の保険者(協会けんぽ・健保組合・市区町村など)
⚠️ 対象外の費用:差額ベッド代、入院時の食事代、先進医療費、インプラント費用などの保険外負担分は高額療養費の対象外です。
まずは70歳未満の自己負担限度額を見てみましょう。標準報酬月額(健保の場合)または旧ただし書き所得(国保の場合)の5つの区分に応じて、月単位の限度額が定められています。
| 区分 | 標準報酬月額 | 自己負担限度額(月額) | 多数回該当 |
|---|---|---|---|
| ア | 83万円以上 | 252,600円 +(総医療費 − 842,000円)× 1% | 140,100円 |
| イ | 53万〜79万円 | 167,400円 +(総医療費 − 558,000円)× 1% | 93,000円 |
| ウ | 28万〜50万円 | 80,100円 +(総医療費 − 267,000円)× 1% | 44,400円 |
| エ | 26万円以下 | 57,600円 | 44,400円 |
| オ | 住民税非課税 | 35,400円 | 24,600円 |

(70歳未満の所得区分と自己負担限度額イメージ)
冒頭の会社員が「区分ウ」(標準報酬月額28万〜50万円)に該当し、医療費が100万円かかったケースで実際に計算してみます。
条件:70歳未満、区分ウ、窓口3割負担、総医療費 100万円
① 窓口支払額 = 1,000,000円 × 30% = 300,000円
② 自己負担限度額 = 80,100 +(1,000,000 − 267,000)× 1% = 87,430円
③ 払い戻し額 = 300,000 − 87,430 = 212,570円
→ 最終的な自己負担額は 87,430円。窓口で見た金額の3分の1以下まで圧縮されます。
救いの一枚「限度額適用認定証」——窓口で立替えずに済む仕組み
ここで問題になるのが、上で見た「払い戻し」は事後精算だということ。 いったん窓口で30万円を支払い、3ヶ月ほど経ってから差額が振り込まれます。 20万円超の立替は、家計にとってけっこうな負担です。
そこで使えるのが、限度額適用認定証。事前に保険者から取得して入院時に医療機関に提示すれば、 窓口の支払いは最初から自己負担限度額までで済みます。先ほどの例なら、87,430円の支払いで完結。立替の必要がありません。
| 対象者 | 申請書 |
|---|---|
| 70歳未満の方 / 70歳以上の現役並み所得者 | 限度額適用認定申請書(様式第5号) |
| 住民税非課税の方 | 限度額適用・標準負担額減額認定申請書(様式第6号) |
💡 ポイント:入院・手術の予定がある場合は、事前に限度額適用認定証を取得しておくと、 高額な立替払いを避けられます。マイナンバーカードを健康保険証として利用している場合は、 認定証がなくても窓口で自動的に限度額適用ができる医療機関もあります。
申請先は加入している健康保険の保険者です。協会けんぽなら都道府県支部、健保組合なら所属の組合、国民健康保険なら市区町村の窓口。 申請から交付までだいたい1週間程度かかるので、入院日が決まったらすぐに動くのが安全です。 緊急入院など事前申請ができなかった場合は、入院後でも交付してもらえれば、その月以降の支払いが限度額までで済みます。
月をまたいだ入院は、思わぬ落とし穴になる
高額療養費の計算ルールでひとつ注意したいのが、限度額は月単位(1日〜末日)で適用されるということ。 月をまたいで入院すると、それぞれの月で別々に限度額が計算され、合算はできません。
例えば3月20日〜4月10日の入院だと、3月分と4月分にきれいに分かれて、それぞれ限度額まで自己負担が発生します。 同じ22日間の入院でも、月内に収まる場合と月をまたぐ場合で、最終負担額が大きく変わってしまうわけです。 予定入院なら、可能であれば月初に入院・月末までに退院するスケジュールを組むと、限度額の枠を1回分節約できます。 担当医や入院窓口に相談する価値は十分あります。
退院後、家族の医療費もまとめられる——世帯合算
退院後、自己負担が限度額に届かなかった月でも、まだ取りこぼせるお金があります。それが世帯合算。 同じ健康保険に加入している家族の医療費を合算して、世帯全体での限度額を超えていれば、超過分が払い戻される仕組みです。
| 項目 | 70歳未満 | 70歳以上 |
|---|---|---|
| 合算条件 | 1件あたり21,000円以上のみ | 自己負担額全額が対象 |
| 計算単位 | 世帯合算のみ | 外来個人 or 世帯合算 |
| 同一保険 | 同じ健康保険に加入する家族のみ合算可能 | |
対象になるのは、同じ健康保険に加入している家族(被扶養者)の医療費。70歳未満どうしの場合は、1件あたり21,000円以上の自己負担に限って合算できます。同じ医療機関でも入院と外来は別計算、というルールは個人単位と同じです。 70歳以上は、金額の足切りなく全額が合算対象。家族に高齢の親がいる世帯では、ここの効果が特に大きくなります。
何度も入院した年は、4回目から、もっと軽くなる
持病があって何度も入院する人や、長期治療で繰り返し限度額に届く人には、もうひとつの軽減策が用意されています。 それが多数回該当。直近12ヶ月以内に高額療養費の支給を3回以上受けると、4回目以降は自己負担限度額がさらに引き下げられる仕組みです。
| 所得区分 | 通常の限度額 | 多数回該当 | 軽減額 |
|---|---|---|---|
| ア(83万円以上) | 252,600円〜 | 140,100円 | 112,500円〜 |
| イ(53〜79万円) | 167,400円〜 | 93,000円 | 74,400円〜 |
| ウ(28〜50万円) | 80,100円〜 | 44,400円 | 35,700円〜 |
| エ(26万円以下) | 57,600円 | 44,400円 | 13,200円 |
| オ(住民税非課税) | 35,400円 | 24,600円 | 10,800円 |
※ 低所得者I・IIには多数回該当の適用はありません。
例:70歳以上・一般区分、世帯の自己負担額10万円、直近12ヶ月で4回目の高額療養費
① 通常の世帯限度額 = 57,600円 → 多数回該当で 44,400円 に軽減
② 払い戻し額 = 100,000 − 44,400 = 55,600円
→ 通常より 13,200円 多く払い戻されます。
70歳になると、外来と入院で別のルールが現れる
制度の使い心地が大きく変わるのが、70歳になった月です。 70歳以上75歳未満の人には、70歳未満とは別の限度額表が適用され、「外来(個人ごと)」と「入院+外来(世帯)」でそれぞれ上限が設定されます。 外来のみが続いている人には、外来用の低い限度額が単独で効く仕組みです。
| 区分 | 外来(個人) | 世帯(入院+外来) | 多数回該当 |
|---|---|---|---|
| 現役並みIII課税所得690万円以上 | 252,600円+(医療費-842,000)×1% | 同左 | 140,100円 |
| 現役並みII課税所得380万円以上 | 167,400円+(医療費-558,000)×1% | 同左 | 93,000円 |
| 現役並みI課税所得145万円以上 | 80,100円+(医療費-267,000)×1% | 同左 | 44,400円 |
| 一般 | 18,000円 | 57,600円 | 44,400円 |
| 低所得者II | 8,000円 | 24,600円 | — |
| 低所得者I | 8,000円 | 15,000円 | — |
💡 年間外来上限:70歳以上の一般・低所得区分の方は、年間(8月〜翌7月)の外来自己負担合計が144,000円を超えた場合、超過分が追加で払い戻されます。
制度を最大限に使うための申請の流れも押さえておきましょう。基本は次の4ステップです。
医療機関で窓口負担額を支払う
保険証の負担割合(1割〜3割)に基づく自己負担額を支払います。
保険者から高額療養費の通知を受け取る
診療月の約3ヶ月後に保険者から通知が届くことが多いです。
高額療養費支給申請書を提出
協会けんぽの場合は様式第2号を提出します。申請期限は診療月の翌月1日から2年間です。
払い戻しを受ける
申請後、通常2〜3ヶ月程度で指定口座に振り込まれます。

(高額療養費の申請フロー)
ひとつ忘れがちなのが、申請期限は診療月の翌月1日から2年であること。 過去にもらえたはずの払い戻しに気づいたら、まだ間に合うかもしれません。保険者によっては自動的に払い戻しを行うところもありますが、 国保や一部の健保組合では申請がなければ支給されないこともあるので、過去2年分の医療費の請求書はチェックしておく価値があります。
さらに、高額療養費と医療費控除(確定申告)は併用できます。 ただし医療費控除に計上できるのは、高額療養費で払い戻された分を差し引いた、実際の自己負担額。 高額療養費を受けた上で、なお残った自己負担額が年間10万円(または所得の5%)を超えれば、確定申告で所得税の還付を狙えます。 申請を取りこぼさないこと、それがこの制度を使いこなす最大のコツです。
【免責事項】
本記事の内容は2026年3月時点の情報に基づく概算です。 制度内容は改正されることがあります。 実際の給付額や手続きについては、加入している健康保険の保険者(協会けんぽ・健保組合・市区町村)にご確認ください。 本記事の情報と実際の給付が異なった場合、当サイトは責任を負いかねます。
参考資料
- ・全国健康保険協会(協会けんぽ)「高額な医療費を支払ったとき(高額療養費)」
- ・全国健康保険協会(協会けんぽ)「70歳以上の方の高額療養費」
- ・厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」