相続税の計算と基礎控除を完全解説【2026年版】

高橋 健太 (Kenta Takahashi)
金融機関での実務経験を活かし、難しい税金や社会保険の仕組みを「誰にでも分かりやすく」解説することをモットーに活動しています。CalcEasyでは、ユーザーの皆様が自分のお金や制度について正確にシミュレーションできるよう、コンテンツの監修とツール設計のサポートを行っています。

亡くなった方のうち、約9%が相続税の課税対象——国税庁の2023年の統計です。 「自分の家には関係ない」と思っていた人の多くが、いざ相続が発生してから慌てることになります。 この記事では、相続税にまつわる5つのよくある誤解を、ひとつずつ事実で正していきます。
誤解その1 —「相続税は富裕層の話、自分には関係ない」
「うちは普通の家庭だから相続税なんて関係ない」。そう思っている方は少なくありません。 しかし実際には、亡くなった方の約9%が課税対象です。特に土地や不動産を持っている家庭では、 金融資産は多くなくても基礎控除を超えるケースが意外と多いのです。
では、その基礎控除とはいくらなのか。相続税には大きな非課税枠があり、遺産の総額がこの金額以下であれば、相続税はゼロで申告も不要です。
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

(相続人が増えるほど基礎控除額が増加。3人家族なら4,800万円まで非課税です)
法定相続人の数別・基礎控除額早見表
| 法定相続人の数 | 基礎控除額 | 相続人の例 |
|---|---|---|
| 1人 | 3,600万円 | 配偶者のみ(子なし) |
| 2人 | 4,200万円 | 配偶者+子1人 |
| 3人(最も多いケース) | 4,800万円 | 配偶者+子2人 |
| 4人 | 5,400万円 | 配偶者+子3人 |
| 5人 | 6,000万円 | 配偶者+子4人 |
出典:国税庁「No.4152 相続税の計算」
💡 ポイント:配偶者+子2人(3人)の家庭では基礎控除が4,800万円。遺産が4,800万円以下なら相続税はゼロです。 しかし土地・不動産を含む場合は意外と超えるケースも多いので注意が必要です。
なお、基礎控除以下でも申告が必要になるケースがあることは覚えておきたいところです。 配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用する場合は、課税価格がゼロになる場合でも申告が必要となります。 また、相続前の贈与加算により課税価格が基礎控除を超えるケースもあります。「申告しなくていい」と思い込む前に、 まずは遺産総額を把握することから始めましょう。
誤解その2 —「遺産全額に税金がかかる」
「遺産の何%かがごっそり持っていかれる」。これも根強い誤解です。 実際には、基礎控除を引いたあとの残額にしか課税されません。しかも税率は一律ではなく、 金額が大きくなるほど税率が上がる累進方式が採用されています。 まずは税率テーブルを見てみましょう。
| 法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 10% | ― |
| 3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
出典:国税庁「No.4155 相続税の税率」
ただし、この税率表をそのまま遺産総額に掛けるわけではありません。 実際の相続税額は、次のような5つのステップを経て計算されます。

(課税遺産総額の算出から控除適用まで、5つのステップで相続税額が確定します)
課税遺産総額を計算する
(正味の遺産額 + 相続前7年内の贈与財産)− 基礎控除額
法定相続分で仮に按分する
課税遺産総額を各相続人の法定相続分で分割(配偶者1/2・子供1/2など)
各自の仮税額を算出し合算する
各自の分担額に税率テーブルを適用→合計して「相続税の総額」を算出
実際の取得割合で按分する
相続税の総額を、実際の遺産取得割合で各相続人に振り分ける
各種控除・加算を適用する
配偶者控除・未成年者控除・障害者控除・2割加算などを反映して確定税額を計算
手計算で5ステップを追いかけるのは現実的ではありません。遺産の内訳がざっくり見えているなら、 計算ツールに入れてしまうのが一番早いです。
誤解その3 —「配偶者は一切相続税を払わない」
「配偶者は無税だから大丈夫」。半分は正しく、半分は誤りです。 配偶者には税額軽減という強力な制度があり、次のいずれか大きい金額まで相続税がゼロになります。
- 1億6,000万円
- 配偶者の法定相続分相当額(遺産総額 × 1/2など)
例:遺産総額2億円、法定相続人が配偶者+子2人の場合、配偶者の法定相続分は1億円。 1億6,000万円の方が大きいため、配偶者が1億6,000万円以内を相続した場合は相続税ゼロ。
つまり、配偶者が相続する分についてはかなりの金額までゼロですが、それを超えた部分にはしっかり課税されるのです。 また、配偶者以外の相続人には別の控除・加算が適用されます。未成年(18歳未満)の相続人には(18歳 − 相続時の年齢)× 10万円、障害者の相続人には(85歳 − 相続時の年齢)× 10万円(特別障害者は20万円)が税額から控除されます。一方、兄弟姉妹や孫など、配偶者・子・父母以外の方が相続する場合は、 算出税額が20%加算される点にも注意が必要です。
ちなみに生命保険金も「みなし相続財産」として相続税の対象です。 ただし500万円×法定相続人数の非課税枠があり、相続人3人なら1,500万円まで非課税。 これは知っておくとかなり大きな節税になります。
誤解その4 —「自宅を相続すると、評価額で莫大な税金がかかる」
「親の家を継ぐと、評価額で相続税が計算されて払えなくなる」——これも相続相談でよく聞く不安です。 しかし、自宅や事業用地を相続した場合には小規模宅地等の特例という救済制度があり、 一定の要件を満たせば土地の評価額を最大80%減額できます(330㎡まで)。
例:評価額5,000万円の自宅の場合、特例適用で1,000万円として計算できます。 配偶者+子2人の家庭なら基礎控除4,800万円と合わせて、相続税がゼロになるケースも珍しくありません。
ただし一点、注意しておきたいのは——この特例は申告してはじめて適用されるということ。 「特例を使えば課税価格がゼロになるから申告しなくていい」ではなく、「特例を使うためにこそ申告が必要」なのです。 自宅を相続する予定の方は、申告期限内の手続きを忘れずに。
誤解その5 —「生前贈与で対策すれば問題ない」
「毎年110万円ずつ贈与しておけば相続税はかからない」。 これは長らく定番の節税プランでしたが、2024年の税制改正で前提が大きく変わりました。
⚠️ 重要な改正:2024年1月1日以降の贈与から、相続前の持ち戻し期間が3年から7年に段階的に延長されています。 亡くなる前7年以内に行われた暦年課税の贈与(相続人への贈与)は、相続財産に加算されます。 ただし延長された4年分(3〜7年前)については、合計100万円まで除外されます。
| 死亡時期 | 持ち戻し期間 |
|---|---|
| 2026年12月31日以前 | 3〜4年(移行期間) |
| 2031年1月1日以降 | 7年(完全適用) |
つまり、亡くなる直前に慌てて贈与しても、7年以内の分はすべて相続財産に戻されてしまいます。 「駆け込み贈与」が通用しなくなった今、生前贈与で本気の対策をするなら、相続の何十年も前から計画的に進める必要があるということです。
もうひとつの落とし穴 —「10ヶ月はまだ先の話」
相続税の申告・納税の期限は、相続の開始(被相続人の死亡)を知った日の翌日から10か月以内です。 「10ヶ月もあれば余裕」と思うかもしれません。ところが実務では、この期限に追われて慌てる方がとても多いのです。
理由はシンプルで、やることが多すぎるからです。不動産の評価、金融資産の名寄せ、遺産分割協議、 相続人全員の同意取得、税理士探し——これらを順にこなしていくと、半年はあっという間に過ぎます。 葬儀や四十九日、精神的な整理の時間まで考えると、実際に動ける期間はもっと短いと思っておいたほうがいいでしょう。
期限を過ぎると、延滞税や無申告加算税が発生します。 遺産分割協議がまとまらない場合でも、いったん法定相続分で申告しておき、後日修正申告をする方法があります。 「まとまってから動こう」ではなく、「期限から逆算して動く」のが鉄則です。
相続税は、誤解の多い分野です。正しく知っていれば必要以上に恐れる必要はなく、 甘く見ていると思わぬ負担になります。気になる方は、遺産総額を入れて一度シミュレーションしてみてください。 自分がどの誤解に当てはまるか、きっと見えてくるはずです。
【免責事項】
本記事の内容は2026年3月時点の情報に基づく概算です。 税法は毎年改正されるため、今後変更の可能性があります。 実際の税額・手続きについては、所轄の税務署または税理士にご確認ください。 本記事の計算結果と実際の税額が異なった場合、当サイトは責任を負いかねます。
参考資料
- ・国税庁「No.4152 相続税の計算」
- ・国税庁「No.4155 相続税の税率」
- ・国税庁「No.4158 配偶者の税額の軽減」
- ・国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
- ・国税庁「令和6年度税制改正(生前贈与加算の見直し)」