退職金の税金と節税【2026年最新ガイド】

高橋 健太 (Kenta Takahashi)
金融機関での実務経験を活かし、難しい税金や社会保険の仕組みを「誰にでも分かりやすく」解説することをモットーに活動しています。CalcEasyでは、ユーザーの皆様が自分のお金や制度について正確にシミュレーションできるよう、コンテンツの監修とツール設計のサポートを行っています。

退職金2,000万円。口座に振り込まれた金額を見て、顔色が変わった—— 申告書をたった1枚出し忘れただけで、400万円以上が天引きされていた。
これは実際に起こりうる話です。 退職金の税金は、正しい知識があるかどうかで手取りが数百万円変わります。 この記事では、退職所得税の仕組みから2026年の法改正、そして「絶対に出し忘れてはいけない1枚の書類」まで、 退職金を1円でも多く手元に残すために必要な知識をまとめました。
退職金の税金、なぜこんなに優遇されているのか
退職金を給与と合算して計算(総合課税)すると税率が一気に跳ね上がります。 そのため日本の税法では、退職金に分離課税という非常に優遇された計算方法を採用しています。
退職所得(課税対象額) = (退職金総額 − 退職所得控除額) × 1/2
大きな非課税枠(退職所得控除額)を引き、残った金額をさらに半分(1/2)にしてから税率を掛けます。 非課税枠は勤続年数によって決まります。
- 勤続年数20年以下: 40万円 × 勤続年数(最低80万円保障)
- 勤続年数20年超: 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)

(勤続年数が長くなるほど「退職所得控除額」という非課税枠が階段状に大きく増えます)
💡 ポイント:同じ会社で20年働くと、翌年からは1年あたりの控除額が40万円から70万円へ跳ね上がります。20年の節目は大きなターニングポイントです。
なお、身体障害や精神障害等により退職する場合(障害退職)は、通常の退職所得控除額に加えて100万円が追加されます。 診断書等の証明書類が必要ですが、該当する方は会社の人事担当者や税務署に確認してみてください。
勤続年数×退職金額で、手取りはこう変わる
(1) 勤続年数別・退職所得控除額一覧
| 勤続年数 | 退職所得控除額(非課税枠) | 計算式 |
|---|---|---|
| 5年 | 200万円 | 40万×5 |
| 10年 | 400万円 | 40万×10 |
| 15年 | 600万円 | 40万×15 |
| 20年(節目) | 800万円 | 40万×20 |
| 25年 | 1,150万円 | 800万+70万×5 |
| 30年 | 1,500万円 | 800万+70万×10 |
| 35年 | 1,850万円 | 800万+70万×15 |
| 40年 | 2,200万円 | 800万+70万×20 |
出典:国税庁「退職所得の受給に関する申告書」計算式に基づく(一般従業員の場合)
(2) 退職金別・手取り概算(一般従業員・勤続年数別)
※ 所得税(速算表適用)+復興特別所得税(2.1%)+住民税(10%)を差し引いた概算です。役員等・短期退職には別途ルールが適用されます。
| 勤続年数 | 退職金 | 控除額 | 課税退職所得 | 税合計(概算) | 手取り(概算) |
|---|---|---|---|---|---|
| 10年 | 300万円 | 400万円 | 0円 | 0円 | 300万円 |
| 500万円 | 400万円 | 50万円 | 約7.6万円 | 約492万円 | |
| 20年 | 1,000万円 | 800万円 | 100万円 | 約15.1万円 | 約985万円 |
| 2,000万円 | 800万円 | 600万円 | 約138.9万円 | 約1,861万円 | |
| 30年 | 1,500万円 | 1,500万円 | 0円 | 0円 | 1,500万円 |
| 2,000万円 | 1,500万円 | 250万円 | 約40.6万円 | 約1,959万円 | |
| 3,000万円 | 1,500万円 | 750万円 | 約186.2万円 | 約2,814万円 |
※ 課税退職所得 = (退職金 − 控除額) ÷ 2。税合計 = 所得税 + 復興特別所得税(2.1%) + 住民税(10%)。概算のため実際と異なる場合があります。
ただし、取締役・監査役・執行役員など「役員等」の場合は計算ルールが異なります。 勤続年数5年以下の役員等は、通常の1/2課税が適用されず、(退職金 − 控除額) の全額が課税退職所得になります。 勤続5年超であれば一般従業員と同じ1/2課税が適用されます。
一般従業員でも勤続5年以下の場合は注意が必要です。 (退職金 − 控除額) が300万円以内であれば通常どおり1/2課税ですが、300万円を超えた部分は1/2課税なしで全額が課税退職所得に加算されます。 たとえば勤続3年(控除120万円)で退職金500万円の場合、課税対象は 300万×1/2 + (380万−300万) = 150万+80万 = 230万円となります。
2026年の法改正で「5年空ければOK」が通用しなくなった
これまで、iDeCoや企業型DCを一時金で受け取り、5年以上間をあけてから会社の退職金を受け取るという節税テクニックが広く知られていました。 しかし、2026年の税制改正でこの前提が崩れました。

(2026年以降、実質10年のインターバルが必要となる厳しい法改正のイメージ)
⚠️ 2026年改正の注意点:重複排除期間が「前4年以内」から「前9年以内」(実質10年のインターバルが必要)に延長されました。 会社の退職金を受け取る前9年以内にiDeCoなどを受け取っていた場合、勤続年数の重複部分の控除が大幅に削られます。
- 2026年以降に退職を迎える方は、「iDeCoをいつ受け取るか」という受給タイミングの戦略を根本から見直す必要があります。
- 60歳でiDeCoを受け取り、65歳で会社退職金を受け取る場合(5年差)は重複排除の対象となります。注意が必要です。
では、iDeCoの一時金と会社の退職金を同じタイミングで受け取ったらどうなるか。 同年または前9年以内に受け取る場合、双方の勤続期間が重なる部分の控除が削られます。 以前の「5年以上空ければOK」という節税テクは、2026年改正で事実上使えなくなりました。 具体的な受取タイミングの戦略は、税理士への相談を強くおすすめします。
たった1枚の書類が、数百万円の分かれ道になる
「退職金は会社が勝手に税金を計算して振り込んでくれる」——そう思っていませんか? 残念ながら、それは大きな誤解です。

(退職時に必ず提出しなければならない重要な申告書)
申告書提出の手順
退職確定後すぐ:人事部に申告書を請求
「退職所得の受給に関する申告書」の様式を会社の人事・給与担当部門に請求します。国税庁サイトからも入手可能です。
退職前日までに:記入・押印・提出
氏名・住所・勤続期間などを正確に記入し、押印のうえ退職金支払い前に提出します。iDeCoなど他の退職一時金がある場合はその内容も記載します。
退職金支給時:源泉徴収票を受け取る
退職後に「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」が会社から交付されます。内容(税額・控除額)を確認しましょう。
翌年1〜3月:必要に応じて確定申告
申告書を提出していれば、通常は確定申告不要です。申告書を出し忘れた場合や、複数箇所からの退職金がある場合は確定申告で過払い税金を取り戻せます。
万が一、出し忘れてしまったらどうなるか。 退職金総額に対して一律20.42%が源泉徴収されます(1,000万円なら204.2万円)。 ただし、翌年の確定申告(還付申告)を行えば、本来の税額との差額が還付されます。 書類を紛失しても税務署で手続きできますので、諦めずに申告しましょう。
もうひとつ注意したいのが、同じ年に複数の会社から退職金を受け取る場合です。 それぞれの会社で申告書を提出しても、控除が重複適用されて税額が過少徴収されることがあります。 翌年に確定申告を行い、合計した退職所得で再計算する必要があります。 過少徴収なら追納、過剰徴収なら還付となります。
退職金を受け取る前にやっておくべき3つのこと
「退職所得の受給に関する申告書」を退職前日までに提出する。これを忘れると、退職金の20%以上が余計に天引きされます。
iDeCoや企業型DCがある方は、受取タイミングの戦略を税理士と相談する。2026年改正で「5年空ければOK」は通用しなくなりました。
シミュレーターで手取り額を事前に確認しておく。退職金の額と勤続年数を入れるだけで、税額と手取りがすぐにわかります。
退職金は、長い勤務に対する正当な報酬です。 正しい知識と1枚の申告書で、大切なお金をしっかり守ってください。
【免責事項】
本記事の内容は2026年3月時点の情報に基づく概算です。 税法は毎年改正されるため、今後変更の可能性があります。 実際の税額・手続きについては、所轄の税務署または税理士にご確認ください。 本記事の計算結果と実際の税額が異なった場合、当サイトは責任を負いかねます。
参考資料
- ・国税庁「退職所得の受給に関する申告書」
- ・国税庁「退職所得控除額の計算方法(タックスアンサー No.1420)」
- ・国税庁「短期退職手当等について(タックスアンサー No.1422)」
- ・国税庁「令和8年度(2026年)税制改正の概要」
- ・厚生労働省「企業型確定拠出年金・iDeCoの一時金受取に関する税制」